音楽のこと

こどもの頃

 両親が買ってくれた童謡のレコードをプレイヤーのターンテーブルに載せて、アームを持ち上げるとくるくる回り始めるのがとてもうれしかった。
 母は自分の子供にピアノを習わせたかったそうで、確か私が3〜4歳の頃にピアノを買ってくれた。私が母に叱られてベソをかいて玄関の外へ出ていたら、ピアノを載せたトラックがスーッと庭へ入ってきたのを今も憶えている。トラックのおじさんは、私を見てにっこり笑ったように思う。

 ピアノのレッスンも受けに行ったが、バイエル、ハノン・・・と味気ない曲の練習はいやだった。親の言うことをきかなくなった小5の頃習うのをやめて、好きな楽譜をいっぱい買い込んできて、適当に弾いてみた。とても聴けたものではなかったが、初めて楽しいと思った。
 家では、クラシック以外の音楽を聴いていると母にやかましいと言われた。



10代の終わり頃

 高校生にもなると、ポピュラーな曲も弾いてみようと思い立った。高校を出て親元を離れ、ピアノが弾けなくなった。そこで、他学部生は入れない教育学部の練習室へこっそり忍び込んで弾いた(ロックをやっていた悪友が教えてくれた)。

 その後友達の影響で、ジャズを聴くようになった。JAZZ研に籍を置き、その魅力に取りつかれた。ジャズピアノにも憧れたが、私には無理だった。ジャズは聴くのに徹することにした。ジャズは「スイングしなけりゃ意味がない」のである。
 ちなみに、初めて聴いたジャズは確かビル・エバンスだったと思う。静かなピアノトリオの演奏は、とても心が落ち着く。サキソフォンが加わったクァルテットもいい。歌うような、ときには泣くようなサックスがソロを取るところなんか、ぐっとくるものがある。
 ジャズには、やはりどこか退廃的なムードが付きまとうものだけど、そこがまたいいのじゃないかと思う。



ジャズとフュージョン

 わたしは、飽きのこないスタンダード・ナンバーをよく聴いた。好きな曲は、ミスティ、枯葉、A列車で行こう、サテンドール、サマータイム、スターダスト・・・いくらでも出てくる。
 
 最近よく霧が出る。そんなとき外を見ると「ミスティ」のメロディーを思い出す。この曲は確か、エロル・ガーナーがシカゴ空港上空で霧を見た時、曲想が浮かんだと聞いたことがある。

 どちらかと言えば、大人数でやってるビッグバンドの演奏よりも、ライヴハウスなんかでほお杖ついて聴けるものが好き。

 フュージョンは、ジャズと違って聴いてて疲れることもなく(ジャズは、時には重たいと感じた)、車の中などでもよく聴いた。カシオペアやスクエア、チャック・マンジョーネ、松岡直也などが好きだった。



波の音

 わたしは、海の近くに住んでいる。海岸まで、直線距離で1km足らず。波の音が聞こえてくるときもある。海へと通じる小さな道は、通る人もほとんどいない。波の音と、ときどきうぐいすが鳴く声が聞こえる他は、し〜んと静まり返っている。
 その小さな道の途中からわが家に向かって大きな声を出すと、こだますることがある。
 風がないのに、なぜか波の音だけが聞こえてきたり、その反対だったり、かすかな潮の香りが鼻をくすぐる蒸し暑い夜があったりする。
 
 きょう、今年になって二つ目の、季節外れの台風が過ぎていった。

 波の音を聞くと、心が拡がっていくような感じがする。脳にα波が出るらしいし。
 α波といえば、学生時代、脳波を測定する実験があった。被験者となったわたしは、たまたまお気に入りの曲を刺激として与えられ、すごくきれいなα波が出て、実験者を驚かせたことがあった。(曲は、当時流行っていた「シャカタク」の「ナイト・バーズ」だった。)

 わたしは、波の音が聞こえる曲や、海に関係のある曲、例えば、スタンダードなら「いそしぎ」や「ひき潮」などが好きである。

 「いそしぎ」は、「Pieces Of A Dream」というグループの演奏が好きだ。ボサノバ独特のけだるさのない、クリアで美しいピアノで始まり、最後はスローなテンポでスイングする。
 最近思い出して、ときどきこの曲のレコードを聴いている。ちょうど22歳の今頃の季節に、よく聴いていた。じっと耳を傾けていると、若かったあの頃に思いを馳せている自分に気がつく。
 それにしても、20余年前のレコードプレイヤーがまだ動くのだから、すごい。もっとも、PHONO端子の付いたアンプがなくて、古道具屋でみつけてきた昔のアンプとつないだのだけど。
 
 最初に音楽の中で波の音を聴いたのは、確かラテン・フュージョンの松岡直也の曲だった。曲名は「アドリア」だったと思う。真夏の寝苦しい夜、この曲を聴きながら眠りについたことがあった。
 そういえば、北海道で録ってきた、オホーツク海の波の音のテープも、まだ置いてあるはずだ(波の音を聞き分ける自信はないけれど)。

 わたしはあまり映画は見ない方だが、もう何年も前に見た「ピアノ・レッスン」という映画は、ある童話から作られているらしいということを、最近ある方から教えていただいた。
 この映画、ストーリーの展開には少々理解に苦しむところがある。でも、バックに流れているマイケル・ナイマンの音楽は、なんともせつなく美しく、言葉を失った女主人公のエイダの心情そのものである。
 エイダが渚に打ち捨てられたピアノを弾くシーンなどは、とても感動的である。

 波の音は、かつてわたし自身が母の胎内にいたとき聴いていた音と似ているのだろうか。だから、安らぎ、慰められるのかもしれない。





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